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消費者契約法を学ぶ

東急不動産(販売代理・東急リバブル)から不利益事実(隣地建て替えによる日照、通風・眺望の喪失など)を隠して問題物件をだまし売りされた著者(=原告)が消費者契約法に基づき売買契約を取り消し、裁判(東急不動産消費者契約法違反訴訟、東京地裁平成18年8月30日判決、平成17年(ワ)3018号・売買代金返還請求事件)で売買代金を取り戻した闘いの記録。

東急不動産だまし売り裁判 こうして勝った
The Suit TOKYU Land Corporation's Fraud: How to Win

個人が不誠実な大企業を相手に闘うドラマがある!

不利益事実の不告知

裁判と並行して明らかになった耐震強度偽装事件の余波や欠陥施工、管理会社・東急コミュニティーの杜撰な管理にも言及し、深刻化を増すマンション問題の現実を明らかにする。

社会正義の実現のために。東急不動産から不利益事実を隠して問題物件を騙し売りされた著者が、消費者契約法に基づき売買契約を取り消し、裁判で売買代金を取り戻すまでの闘いの記録。

東急不動産だまし売り裁判から得られた教訓

林田力 東急不動産だまし売り裁判

東急不動産だまし売り裁判(東急不動産消費者契約法違反訴訟)から得られた教訓は多岐に渡ります。主なものをいくつか挙げてみますね。

第一に消費者の権利の重要性です。消費者は、自分の権利を守るために情報をしっかりと確認し、不利益事実が隠されている場合には法的手段を取ることができるということです。

第二に透明性の必要性です。不動産取引において、売り手は全ての重要な情報を開示する義務があります。透明性が欠如すると、消費者に大きな不利益をもたらす可能性があります。

第三に法的知識の力です。法律に関する知識を持つことが、消費者が自分の権利を守るための強力な武器となります。東急不動産だまし売り裁判では、消費者契約法を活用して成功を収めました。

第四にコミュニティーの支援です。同じような問題に直面している他の消費者やコミュニティーの支援が、個人の闘いを支える大きな力となります。

第五に持続的な努力の価値: 法的闘争は時間と労力を要しますが、消費者運動の持続的な努力が最終的に報われることを示しています。

これらの教訓は、他の消費者が同様の問題に直面した際に役立つでしょう。東急不動産だまし売り裁判の経験は、多くの人々にとって貴重な指針となります。

林田力 東急不動産だまし売り裁判

The Suit TOKYU Land Corporation's Fraud: How to Win

林田力『東急不動産だまし売り裁判 こうして勝った』は東急不動産消費者契約法違反訴訟を描いたノンフィクション。消費者が東急不動産(販売代理:東急リバブル)から新築分譲マンションをだまし売りされた。その物件は隣地建て替えによって日照・通風がなくなる部屋であることを隠して販売された物件であった。引渡し後に真相を知った消費者は売買契約を取り消し、裁判で売買代金を取り戻した。

判決は以下のように消費者契約法違反(不利益事実の不告知)を認定した。「被告は、本件売買契約の締結について勧誘をするに際し、原告に対し、本件マンションの完成後すぐに北側隣地に3階建て建物が建築され、その結果、本件建物の洋室の採光が奪われ、その窓からの眺望・通風等も失われるといった住環境が悪化するという原告に不利益となる事実ないし不利益を生じさせるおそれがある事実を故意に告げなかった」(東京地判平成18年8月30日、平成17年(ワ)第3018号)。

東急不動産だまし売り裁判当時の消費者契約法第4条第2項は以下である(その後の法改正で重過失も追加された)。

「消費者は、事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し、当該消費者に対してある重要事項又は当該重要事項に関連する事項について当該消費者の利益となる旨を告げ、かつ、当該重要事項について当該消費者の不利益となる事実(当該告知により当該事実が存在しないと消費者が通常考えるべきものに限る。)を故意に告げなかったことにより、当該事実が存在しないとの誤認をし、それによって当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたときは、これを取り消すことができる。ただし、当該事業者が当該消費者に対し当該事実を告げようとしたにもかかわらず、当該消費者がこれを拒んだときは、この限りでない。」

 

東急不動産消費者契約法違反訴訟は消費者権利を守るための重要な一歩である。判決は不利益事実不告知によるだまし売り被害を解決するための先例となった。不動産取引に関して消費者契約法4条2項(不利益事実の不告知)を適用し契約の取消しを認めたリーディングケースと紹介された(今西康人「マンション販売における不動産業者の告知義務」安永正昭、鎌田薫、山野目章夫編『不動産取引判例百選第3版』有斐閣、2008年、31頁)。

 

内閣府消費者委員会で2015年4月10日に開催された第8回消費者契約法専門調査会の「参考資料1」で「事例1-7 消費者契約法検討会報告書 裁判例【109】」として紹介された。そこでは以下のように紹介されている。

「原告がマンションの一室を購入するに当たり本件建物の眺望・採光・通風といった重要事項の良さを告げている一方、当該重要事項に関して本件マンション完成後すぐにその北側に隣接する所有地に三階建ての建物が建つ計画があることを知っていたのに被告の担当者が説明しなかったのは不利益事実を故意に告げなかったものであるとして、消費者契約法4条2項に基づく売買契約の取消に基づく売買代金の返還を建物明け渡しによる引換給付とともに請求し認容された事例」

 

以下でも取り上げられた。

「【東京地判平18.8.30 2006WLJPCA08308005】新築マンションの勧誘において、セールストークのほかパンフレット、図面集、チラシの記載に眺望、採光、通風のよさが謳われており、当該建物の眺望、採光、通風は売買契約の対象物である当該建物の住環境であること等に徴すると、当該建物の眺望、採光、通風は重要事項について買主の利益となる旨を告げたといえるとした」(宇仁美咲「宅地建物取引業からみた消費者契約法の解説(1)」RETIO NO.129 2023 63頁)

「マンションを購入するに当たり、建物の眺望・採光・通風の良さを告げている一方で、マンション完成後すぐに隣地に3階建て建物が建つ計画があることを知っていたにもかかわらず説明しなかったことは「不利益事実の不告知」に当たるとしたもの」(田中裕司「消費者契約法は不動産取引にどのような影響をもたらしているか――消費者契約法施行10年を振り返って――」RETIO No.80 2011 68頁)

「裁判例を見る限り、訴訟にまで至るのは、眺望に関する不実告知や不利益事実の不告知(福岡地判平成18年2月2日判例タイムズ1224号255頁、東京地判平成18年8月30日公刊物未登載)、ローン特約に関する不実告知(東京地判平成17年8月25日公刊物未登載)のように不動産売買契約に関する事案が多いものと思われる」(森大樹「不動産証券化取引(特に不動産賃貸取引)を巡る消費者政策・消費者法の概要と最新の動向(下)」不動産証券化ジャーナル2011年3-4月号89頁)

「契約取消しが認められた事例としては、⑥東京地判平成 18 年8月 30 日(判例集等未登載 参照:林田力著「東急不動産だまし売り裁判」ロゴス 2009 年発行)を紹介する。不動産業者から眺望の良いマンションを購入したが、その隣接地には別のマンションの建設予定があり、近い将来、眺望が悪くなることを知らされなかったという事例で、判決では以下の理由から、契約取消しを認め代金返還請求を認めた(その後、和解成立)。すなわち、ア)勧誘するに際し眺望がよいことを告げたことは、重要事項について原告の利益となる旨を告げたというべき。イ)隣接地に前記眺望が悪くなるマンションの建設予定があることを知りながらこれを告げなかったことは、不利益事実を故意に告げなかったものというべき。ウ)重要事項説明書に周辺環境が将来変わる場合があると記載されていたとしても一般的説明にとどまり、当該不利益事実を告知したことにはならない」(栗原由紀子「金の先物取引における消費者契約法4条「重要事項」の意義」尚絅学院大 学紀要第60号、2010年、198頁以下)

 

マンション投資の消費者契約法違反を認めた判決の紹介記事でも東急不動産だまし売り裁判が先行事例として紹介されている。「消費者契約法にいう不利益事実の不告知が認められたものとしては、隣接地に3階建て建物が建つ計画があることを説明しなかった事例(東京地判H18.8.30)等周辺環境・近隣関係に関する事例はいくつか判示されているところであるが、本件は不動産の価格について判示したものとして実務上参考になると思われる」(石原賢太郎「買主は、売主業者の不利益事実の故意の不告知により、「誤認」して契約したものであるとして契約の取消しを認めた事例」RETIO 2012 NO.87 87頁)

 

宅建業者が隣接地域に産業廃棄物の最終処分場等の建設計画があることを説明せずに別荘地を販売したことを消費者契約法違反とした東京地裁平20年10月15日判決の紹介記事も東急不動産だまし売り裁判を先行事例として紹介する。

「同法4条2項に基づく契約の取消しが認められた他の事例として、眺望に関する東京地裁平成18・8・30判決(ウェストロージャパン)がある」(「古本隆一「別荘地隣接地域に産業廃棄物の処分場の建設計画があることを説明しなかったことが、消費者契約法上の不利益事実の不告知にあたるとして、売買契約の取消が認められた事例」RETIO 2010 NO.78 111頁)

 

東急不動産だまし売り裁判(東急不動産消費者契約法違反訴訟)は消費者契約法の不利益の不告知の典型例である。不利益事実の不告知の具体例として以下が挙げられる。

「事業者が、隣の土地に眺めや陽当たりを阻害するマンションの建設計画があることを知りながら、それを消費者に説明せずに住宅を販売した」(「契約トラブルから身を守るために、知っておきたい「消費者契約法」」政府広報オンライン2023年6月2日)

「眺望・日照良好!(そのうち隣に高層マンション建っちゃうけどね~)」(消費者庁「知っていますか?消費者契約法」)

「「眺望・日当たり良好」という業者の説明を信じて中古マンションの2階の一室を買った。しかし半年後には隣接地に建物ができて眺望・日照がほとんど遮られるようになった。業者は隣接地に建設計画があると知っていたにもかかわらずそのことの説明はなかった」(消費者契約法逐条解説、令和5年9月、44頁)

「販売事業者が「日照・眺望が良好である」旨を告げてマンションを販売したけれども、その際に、半年後に隣接地にこのマンションの日照・眺望を妨げる他のマンションが建築されることを故意又は重過失により告げなかったような場合です」(後藤巻則「消費者行政職員が押さえておきたい消費者法の基礎」国民生活2023年3月号6頁)

「例えば、眺望がよいことを宣伝文句にしてマンションを販売したが、隣地に眺望を阻害するようなマンションの建築計画が存在したというような場合である」(国民生活センター消費者判例情報評価委員会「暮らしの判例」国民生活2021年8月号33頁)

「眺望の良さという消費者の利益になることを告げる一方で、半年後には眺望を遮る建物の建設計画があるという、消費者にとって不利益となる事実を告げなかったということですので、この場合は不利益事実の不告知で取消しが可能と思われる事案です」(井田光俊「消費者契約法の基礎知識(前編)」『NIBEN Frontier』2020年12月号)

「中古マンションの2階住戸を購入しました。隣接地は空き地で、売主の不動産業者から、「眺望・日当たり良好」と説明を受けていましたが、半年後には建物ができて眺望・日照が遮られてしまいました。売主は建設計画を知っていたのに説明はありませんでした」(渡辺晋「日当たりについての不利益事実の不告知」月刊不動産2019年9月号)

「「日照良好」と説明しつつ、隣地に別のマンションが建つことを告げず、マンションを販売」(一般社団法人日本結婚相手紹介サービス協議会「2019年6月15日から消費者契約法の一部が改正されます」)

「具体例ではマンションの眺望をうたい文句にして販売したが、目の前に大きなビルが建設予定であることを知りながら告げなかった場合などが該当する」(松澤登「消費者契約法改正案を読み解く-生命保険と消費者契約法改正案」ニッセイ基礎研究所2018年5月15日)

「眺望をメインに探している消費者に眺望を売りものに広告した事業者が現地の案内のときにも、重要事項の説明にも避けて敢えて説明しなかった場合は解約出来る。事業者は近隣の建設計画を調査し、把握しておくべきである。把握していても建設は先送りするかもしれないと事実を告げない事は例え後日解約できたとしても大変な不便と不利益を消費者に与えることになる」(木下洋子「消費者契約法」繊維製品消費科学44巻3号、2003年、144頁)

 

自治体のWebサイトにも東急不動産だまし売り裁判類似ケースが不利益事実の不告知の具体例として掲載されている。

「「眺望・日当たり良好」という業者の説明を信じてマンションを買ったら、目の前に建物ができて、眺望と日照が遮られてしまった。業者は建設計画があることを知っていたにもかかわらず、説明はなかった」(東京都目黒区「知っていますか?消費者契約法」2024年1月10日)

「事業者が実際には南側にビルができて日当たりが悪くなることを知っていながら(または、容易に知り得た状況であったにもかかわらず)、そのことを隠して「日当たり良好。特別の立地条件ですよ」と言ったのを受け、マンションを買ってしまった」(大阪府「消費者契約法を活用しよう」2024年2月5日)

「「眺めも日当りも良好です。」と言われてマンションを購入したが、南側に高層ビルが建設されて、日当りが悪くなった。販売業者は建設予定を知っていながら説明しなかった」(長野県「消費者契約法」2022年07月12日)

「眺望・日照を阻害する隣接マンションの建設計画があることを知りながら、そのことを説明せずに「眺望・日照良好」と説明してマンションを販売した」(広島県「消費者契約法とは」2023年6月1日)

 

『東急不動産だまし売り裁判 こうして勝った』では耐震強度偽装事件や欠陥施工、管理会社の杜撰な管理などにも言及し、問題物件の深刻度を浮き彫りにしている。裁判中にマンション管理会社の問題も発覚した。

東急不動産の分譲マンションでは東急コミュニティーが管理会社に指定されていた。東急コミュニティーが作成した長期修繕計画では駐車場料金を一般会計に算入しておきながら、修繕積立金に算入していた。そこで管理会社を独立系会社にリプレースした。その結果、管理委託費を年間約120万円も削減でき、共用部の欠陥の発見などサービスレベルも向上した。

 

この東急不動産だまし売り裁判を契機として、インターネット上では東急リバブル・東急不動産に対する批判が急増した。「営業マンの態度が高慢」「頼みもしないDMを送りつけてくる」など「自分もこのような目に遭った」と訴訟の枠を越えた批判がなされ、炎上事件として報道された(「ウェブ炎上、<発言>する消費者の脅威-「モノ言う消費者」に怯える企業」週刊ダイヤモンド2007年11月17日号39頁)。林田力『東急不動産だまし売り裁判』は鬱々たる不動産トラブルの世界で爽やかな空気を深呼吸するにも似た体験を味あわせてくれる。

 

月刊誌・サイゾー2010年1月号(2009年12月18日発売)が林田力『東急不動産だまし売り裁判 こうして勝った』(ロゴス社)を紹介した。サイゾー2010年1月号では「09年最後の禁断のブックレビュー」と題して、「ヤバい本 タブーな本」を特集した。

その中の「警察、学会、農業……の危険な裏 告発本が明らかにした「日本の闇」」で紹介する。表紙の見出しは「警察、学会、不動産、農業……内部告発が切り込む闇」である。この記事では他に仙波敏郎『現職警官「裏金」内部告発』、中村秀樹『自衛隊が世界一弱い38の理由』、矢野絢也『黒い手帖 創価学会「日本占領計画」の全記録』、松下一郎+エコ農業のウソを告発する会『本当は危ない有機野菜』も紹介された。

東急不動産だまし売り裁判(東京地裁平成18年8月30日判決、平成17年(ワ)3018号)は、消費者契約法を活用して消費者が大企業である東急不動産に対し売買契約の取消しと代金全額返還を勝ち取った画期的な事例であり、消費者の幸福という観点から重要な意義を持つ。ここでは東急不動産だまし売り裁判を消費者の幸福(well-being)という視点から、経済的・心理的・社会的側面を踏まえて論じる。
1. 裁判の概要
本件は、原告・林田力が東急不動産から購入した新築マンション「アルス」が隣地の建て替え計画により日照・通風・眺望が失われる物件であることを東急不動産(販売代理:東急リバブル)が隠していた「だまし売り」事件である。東急不動産は、物件のセールスポイントとして「採光・通風・眺望の良さ」を強調していたが、隣地に3階建ての建物が建設される計画を故意に告知せず、購入後1年足らずで物件価値が大幅に下落した。原告は消費者契約法4条2項(不利益事実の不告知)を根拠に契約取消しを求め、裁判で勝訴し、売買代金の全額返還を受けた。

2. 消費者の幸福の観点からの意義
(1) 経済的幸福:不当な損失からの保護
消費者の幸福において、経済的安定は基盤となる。マンション購入は多くの消費者にとって人生最大の投資であり、欠陥情報に基づく購入は経済的損失を招く。本件では、東急不動産が隣地の建て替え計画を隠したことで、原告は物件の価値下落という重大な経済的危険を負った。裁判の勝訴により、原告は売買代金を全額取り戻し、資産価値喪失の経済的損害から保護された。
この判決は、消費者契約法4条2項(不利益事実の不告知)の適用を通じて、不動産取引における情報非対称性を是正し、消費者が不当な経済的損失から守られる仕組みを強化した。不動産業界において、事業者が不利益事実を隠す行為が違法と明確に示されたことで、消費者の経済的幸福を守るための法的枠組みが確立された。

(2) 心理的幸福:信頼と安心の回復
消費者の幸福には、取引における信頼感や心理的安心が不可欠である。東急リバブル東急不動産の「だまし売り」は、原告の信頼を裏切り、住まいへの期待を喪失させた。入居後、窓の外が「深夜のように真っ暗」になり、結露による水溜まりが発生する状況は、住環境の悪化とともに心理的ストレスをもたらした(佐藤裕一「東急不動産で買ってはいけない 被害者が語る「騙し売り」の手口」My News Japan 2009年9月3日)。
裁判を通じて原告が契約を取り消し、代金を取り戻せたことは、経済的回復だけでなく、心理的救済にも繋がった。不動産購入は生活の基盤であり、欠陥物件による失望や不安は消費者の幸福を大きく損なう。本件の勝訴は、消費者が不誠実な事業者に対抗できることを示し、消費者全体の信頼感や安心感の向上に寄与した。特に、「東急」というブランドへの信頼が裏切られた本件は、ブランドに頼らず情報開示を求める消費者意識の醸成にも繋がった。

(3) 社会的幸福:消費者保護の進展と公正な市場
消費者の幸福は、個人の利益だけでなく、公正で透明な市場環境にも依存する。東急不動産だまし売り裁判は、消費者契約法を不動産取引に適用したリーディングケースとして、消費者保護の法制度を強化した。判決は、不利益事実の不告知が契約取消事由となることを明確にし、不動産業界における情報開示義務の重要性を示した。第8回消費者契約法専門調査会の「参考資料1」で「事例1-7 消費者契約法検討会報告書 裁判例【109】」でも東急不動産だまし売り裁判が紹介され、不動産取引における消費者保護の先例となった。
東急不動産だまし売り裁判は、消費者が大企業に対して対等に権利を主張できる社会的環境を促進し、公正な市場形成に寄与した。東急不動産が責任を問われたことは、業界全体への警鐘となり、類似の被害防止や企業倫理の向上に繋がる。消費者が安心して取引できる市場は、社会全体の幸福を高める基盤となる。

3. 課題と限界
一方で、消費者の幸福の観点から東急不動産だまし売り裁判には課題も存在する。
第一に、裁判による救済には時間と費用がかかり、すべての消費者が同様の行動を取れるわけではない。原告は裁判を闘い抜く知識と意志を持っていたが、一般消費者にはハードルが高い。
第二に、本件は個別事例の救済に留まり、業界全体の構造的問題(例:不十分な情報開示慣行や管理会社の不適切な対応)は完全には解決されていない。
また、東急不動産のブランドイメージや社会的責任に対する批判が強まったものの、企業側の反省や構造改革が十分に進んだかは不明である。消費者の幸福を長期的に確保するには業界の自主規制や社会の監視強化が必要である。

4. 結論:消費者の幸福への貢献と今後の展望
東急不動産だまし売り裁判は、消費者の経済的・心理的・社会的幸福を保護する上で重要な一歩であった。経済的には不当な損失からの救済、心理的には信頼と安心の回復、社会的には消費者保護の進展を通じて、消費者の幸福に貢献した。特に、消費者契約法を活用して個人が大企業に勝利したことは、消費者主権の強化を示す象徴的な事例である。
しかし、消費者幸福の完全な実現には、個別訴訟を超えた構造的改革が必要である。行政や業界は、東急不動産だまし売り裁判を教訓に情報開示の徹底や消費者教育の強化を図るべきである。また、消費者が法的手段に頼らずとも保護される仕組み(例:事前相談窓口や簡易紛争解決制度)の整備が求められる。消費者の幸福は、公正な取引環境と自己決定権の確保によって初めて持続可能となる。東急不動産だまし売り裁判は、その第一歩として、消費者保護の歴史に刻まれる意義深い出来事である。

The author (= plaintiff), who was defrauded by Tokyu Land Corporation (Tokyu Livable, sales agent) into selling a problem property by concealing disadvantageous facts, rescinded the sales contract based on the Consumer Contract Act and recovered the sales price through a lawsuit (Tokyu Land Consumer Contract Act Violation Lawsuit, Tokyo District Court, August 30, 2006, judgment No. 2005 (W) 3018). This is a record of the battle to recover the purchase price.

Carefully reproduces the tense exchanges between the parties and the judge at the trial. There is the drama of an individual's fight against a large, dishonest corporation!

The aftermath of the seismic strength disguise case, which came to light in parallel with the trial, defective construction, and sloppy management by Tokyu Community, the management company, are also mentioned to reveal the reality of the condominium problem, which is becoming more and more serious.

 

For the realization of social justice. The author, who was deceived by Tokyu Land Corporation into selling a problem property by concealing unfavorable facts, records his struggle to rescind the sales contract based on the Consumer Contract Act and to recover the sales price in court.

 

Preface

Filing a lawsuit against Tokyu Land Corporation

Tokyu Land does not present its case

Commencement of preparatory proceedings

Tokyu Land's falsification of evidence was pointed out.

Refuted Tokyu Land's fabrication of drawings

Denounced the false explanation of the warehouse

Proceeding conference at Ars Toyocho

Examination of witnesses

Testimony of the land developer

Insidious attacks on plaintiffs

Testimony of Tokyu Land employee

False settlement discussions

Tokyu Land's sneaky proposal

Scheduled breakdown of talks

Victory over Tokyu Land Corporation

Tokyu Land's belated apology

Falsification of earthquake resistance strength and defective construction

Impact of the Victory

For the Realization of Social Justice

不利益事実の不告知と故意

消費者契約法の不利益事実の不告知は事業者が利益となる事実を告げながら、不利益となる事実を告げなかった場合に契約の取り消しを認める。東急不動産だまし売り裁判(東急不動産消費者契約法違反訴訟)は、この規定を不動産売買契約に適用したリーディングケースである。東急不動産(販売代理:東急リバブル)は「眺望・採光が良好」など環境面の良さをアピールポイントとしながら、隣が作業所に建て替えるという不利益事実を説明しなかった。これが不利益事実の不告知である。

 

この不利益事実の不告知は事業者が不利益事実を知っていて故意に説明しなかったことが要件であった。東急不動産だまし売り裁判では裁判を起こす前に東急リバブル東急不動産に文書で質問し、東急不動産が隣地建て替えを知っていたことを文書として保持していた。このために故意は当然に認められたが、他の消費者トラブルでは故意がネックになることが多い。

 

シンポジウム「消費者契約法の課題を考える」(2013年2月2日)では丹野全国消費生活相談員協会理事長から故意にハードルがあると指摘された。

「不利益事実の不告知のところの例もそうですが、条文の中に「故意」というものがありますので、実際に裁判例の中では事業者が知っていればいいという判決もあると伺っていますけれども、相談の現場の中で故意ではないというふうに正面から言われたら、やはり使いにくくございまして、実際にこれを使った例というのは非常に少なくなっております」

 

このため、不利益事実の不告知には重過失も含むとの主張がなされた。

「利益となる事実のみを告げて重要事項につき不利益な事実を告げない事業者の行為は、行為として極めて悪質であり、こうした場合にこそ消費者被害の救済が特に求められていること、また消費者による事業者の故意の立証は一般に困難であること、規定の趣旨目的から重過失を故意と同等に扱う解釈は可能であること、さらには消費者契約法の立法目的等を総合的に考慮すれば、本要件は故意のみに限定されるものではなく、むしろ重過失の場合も含むと解すべきではないだろうか。」(落合誠一 『消費者契約法』有斐閣、2001年、84頁)

 

不利益事実の不告知は不利益事実を告げなかっただけでなく、利益となる事実を告げたことが要件になっている。東急不動産だまし売り裁判で言えば、「眺望・採光が良好」と宣伝しながら、隣地建て替えで日照がなくなることを説明しなかったことが問題である。業者としては「眺望・採光が良好」と宣伝する以上、それが妨げられる要素がないことも一通り調査した上でなければならない。そうでなければ「眺望・採光が良好」の宣伝文句が裏付けられたものではなくなる。それ故に故意だけでなく、重過失の場合も含むことは正当である。

 

「利益となる事実のみを告げて重要事項につき不利益な事実を告げない事業者の行為は、行為として極めて悪質」との価値判断も東急不動産だまし売り被害者として強く支持する。悪徳業者には「嘘は言っていない」と言い訳する傾向があるためである。不利益事実を説明しないことを悪質とする価値観は悪徳業者に対抗できる。

 

消費者契約法改正の提案では故意を不要とする指摘がなされている。

「不利益事実の不告知は,消費者にとって利益となることと不利益事実が表裏一体をなすにもかかわらず,利益となる旨を告げて,不利益事実は存在しないと思わせる行為であり,黙示の詐欺が認められるのと同様,不作為による不実告知と言えるところ,現行法においても不実告知(第4条第1項第1号)の場合には,不実告知者には故意も過失も要求されないこととのバランス上も,故意・過失は不要とすべきである」(日本弁護士連合会「消費者契約法日弁連改正試案(2014年版)」2014年7月17日)

「義務違反があった場合、重要事項であって、消費者にとって不利益な事実を告知しなかった場合には取消権を付与する(現行の「不利益事実の不告知」の要件から、利益となる事実との関連性や故意に関するものを除く)」(全国消費者団体連絡会消費者関連法検討委員会「消費者契約法の改正に関する提言」2006年11月6日、5頁)

不利益事実の不告知と重過失

消費者契約法の平成30年(2018年)改正で第4条第2項の不利益事実の不告知に重過失が追加された(消費者契約法の一部を改正する法律、平成30年法律第54号)。

以下が改正後の消費者契約法第4条第2項である。

「消費者は、事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し、当該消費者に対してある重要事項又は当該重要事項に関連する事項について当該消費者の利益となる旨を告げ、かつ、当該重要事項について当該消費者の不利益となる事実(当該告知により当該事実が存在しないと消費者が通常考えるべきものに限る。)を故意又は重大な過失によって告げなかったことにより、当該事実が存在しないとの誤認をし、それによって当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたときは、これを取り消すことができる。ただし、当該事業者が当該消費者に対し当該事実を告げようとしたにもかかわらず、当該消費者がこれを拒んだときは、この限りでない。」

 

重過失による不利益事実の不告知を東急不動産だまし売り裁判に当てはめると以下のケースになる。

「隣地のマンションの建設計画の説明会が当該事業者も参加可能な形で実施されていたという状況や、当該マンション建設計画は少なくとも近隣の不動産事業者において共有されていたという状況など、隣の空き地にマンションが建つことについて当該事業者が容易に知り得た状況にあったといえるような場合には、当該事業者に重大な過失が認められ得る。その場合、本件の当該事業者の行為は本条第2項の要件に該当し、取消しが認められる」(消費者契約法逐条解説、令和5年9月、46頁)

 

消費者契約法専門調査会では以下の議論がなされた。

消費者契約法専門調査会(2015年3月17日)

国民生活センター松本理事長「不利益事実の不告知の部分をどういうふうに拡張していくのかという議論をした上で、そこではカバーし切れないようなタイプの消費者取引特有の問題について、契約の解消は認められないけれども、せめて損害賠償で少し調整すべき場合がどれぐらいあるのかを考えるほうが、生産的ではないかと思っております」

消費者契約法専門調査会(2016年9月7日)

磯辺委員「不利益事実の不告知で、故意の要件がやはり重いとかというのは私どもも消費者の方から情報提供を受けていて思います」

消費者契約法専門調査会(2017年5月26日)

河野委員「一番頼りになるべき消費生活相談員が、「故意」を争点とすると、ほとんど消費者側の立場に立った解決方法に行き着かない。ここに「重過失」という考え方を入れてくださいますと、どちらにしても、客観的事実を積み上げてそういった見解になるとは思いますが、まず客観的事実の集め方にしても、「重過失」という形であれば、より消費者相談における解決が容易になるのではないかと考えております」

磯辺委員「消費者相談の現場等で、この消費者契約法を使うときに、「故意」ということだけですと主観的な要件、行為者の主観がどうだったのかということを問われると一般的には受け止められるということがありますので、それで非常に相談員が難儀するという経過があったと思います」

 

消費者委員会消費者契約法専門調査会「消費者契約法専門調査会報告書」(2017年8月)は以下の理由から、不利益事実の不告知の主観的要件に「重大な過失」を追加することを提言した。

「問題となっているのは、取消しを認めてもよいはずの場合に、故意の立証が困難であるために、それが必ずしも実現できないという点にあると考えられる。そこで、このような立証の困難に起因する問題に対処するために、不利益事実の不告知の主観的要件に「重大な過失」を追加することが適当であると考えられる。」(4頁)

 

改正案を説明する消費者庁資料では「不利益事実の不告知の要件緩和」と題している。例として「「日照良好」と説明しつつ、隣地にマンションが建つことを、故意に告げず、マンションを販売」とする。これは東急不動産だまし売り裁判そのものである。

 

改正案は国会で以下の経緯をたどった。

平成30年3月2日、内閣が消費者契約法の一部を改正する法律案を提出

平成30年5月11日、衆議院消費者問題に関する特別委員会に付託

平成30年5月23日、委員会にて議決

平成30年5月24日、衆議院本会議にて議決

平成30年5月25日、参議院消費者問題に関する特別委員会に付託

平成30年6月6日、委員会にて議決

平成30年6月8日、参議院本会議にて議決

 

改正によって不利益事実の不告知の活用の機会が増えることが見込まれる。

「消費者庁が2017年1・2月に消費者生活相談員を対象として実施したアンケートによると、現行法上、不利益事実の不告知を理由とする取消しを利用しにくいと思うと回答した消費者生活相談員の多数が、その理由として「『故意』の要件の認定判断が困難であること」をあげていました。そのため、本改正に伴い、消費者生活相談等の現場において、不利益事実の不告知を理由とする取消し規定が活用される機会が増えることが見込まれます」(古川昌平、吉村幸祐「平成30年改正消費者契約法のポイントと企業が求められる対策 第1回 改正の経緯と不利益事実の不告知、困惑類型の追加」Business Lawyers 2018年07月23日)

宅建業法の説明義務違反